幻游魔法市Mercaというイベントに先日出展参加してきたのですが、催事の一環として 各店舗がオリジナルのシナリオを作成する、という物がありました。
文字数の指定を貰っていたにも関わらずとんでもない勢いで文字数制限ぶっちぎってしまったので、フル版を公開させて頂きます。
海底の街をテーマにされていらっしゃったので、入れるネタは一つしかねぇ!と無駄に張り切った結果だよ‥分かる人だけわかってくだされ‥
ちなみに、鳴兎子屋の店内イメージはこんな感じです。 ブランド立ち上げ時に簡易的なシナリオをお渡しして、イラストレーターの加曽利りあらさんに描いていただいたのですが、想像以上の素晴らしいイラストを仕上げてくださって。
拝見した瞬間これーーーー!!と叫びました。
こんな店内で起こったお話なんだな、と思ってご覧ください。
「客が、こない…」
鳴兎子屋、という一見どう読んだら解らない様な看板を掲げた古道具屋。
雑然と並んだ謎の道具たち、その中で店主は頬杖をつきながらひとりごちた。
「うーん、売上がやばいぞ…そろそろ行商にでも出たい気持ちだ」
何の因果か不思議な力に引き寄せられ、所謂【異世界】を行き来するこの店は、異世界から買った品物達を元の世界で売りさばく事でなんとか生計を立てていた。
しかし、そんなニッチな店が繁盛するわけもなく、狭い店内は買い手の現れないものばかりで埋め尽くされている。
異世界ではランタン代わりに使われているヒカリフワフワムシ(正式名称がわからないので店主が勝手に名付けた)が、のんびりぽわりと光りながらやってきて、あくびをする店主の頭に居を構え、一緒に眠そうな目をしている。 そんな気だるい空気を入れ替えるように、一人の男性客がドアを開け店主にそっと声を掛けた。
「あの、失礼致します」
「あああはいはい!やってますよぉ」
半分うとうとしていた店主はガタガタと急いで立ち上がり、突然の訪問者に対応しようとあたふたと衣服の乱れを整えた。
ヒカリフワフワムシはびっくりした顔でひゅんと何処かに隠れてしまった。
店主の異世界生物図鑑よりイラスト抜粋
ヒカリフワフワムシ:生物名は店主が適当につけた名前。異世界では珍しくない生き物で、捕獲用ランタンにチーズを仕込みしばらくすると、ランタンの中に美味しそうに好物を頬張る彼らの姿を見ることができる。
発光体なので、ランプの光源として利用されることが多い。
「こんにちは、私は海辺の街からやってきた者ですが、こちらは不思議な品物を色々取り揃えていると聞きまして」
「ええ、まあそうですね。変わってるけど使い出のあるものばかりですよ」
客の姿をよく見ると、きちっとした服装にも関わらずなんだか水から上がってきたようなジメッとした、なぜかそんな雰囲気を感じた。
気のせいか、やや血走ってギョロリとした目は一般的な顔相よりも離れ気味。唇は厚ぼったく、ぬらぬらと光っている。
魚の様な顔だなあ、と客人相手に失礼な事を考えてしまう位の顔立ちだった。
「いやさ、実はですね。私の知人が海底都市住まいでして、そこでお祭りがあるという事で出店者を探しているんですよ…変わったものほど街の人や来訪客に喜ばれるとか。そこでお噂を前から聞いていたこちらのお店はどうかと思いまして、こうしてお伺いに参じた次第です」
なんと、行商のお誘いではないか。これは渡りに船だと言わんばかりに、店主は前のめりで詳細を男から聞きだした。
条件も悪くない。
聞いたことのない不思議な場所だがそもそも異世界に飛ばされるこの店だ、いまさら不思議な物事にいちいち驚く事もない。
店主の返事はもちろん、喜んで馳せ参じましょうという結論に至った。
ひとしきり話し終わり、主催への取次を依頼した所でふと彼の素性が気になった。
「すみません、どうやら遠くからお越し下さった様ですが因みにどちらから?」
「私ですか?蔭洲升という小さな漁港ですよ。土地柄、どうも不思議な事象に縁がありまして…海底都市というのも一見眉唾ものでしょう?でもここなら大丈夫だと思ったんです」
蔭洲升…いんすます?聞いたことが無いな、まあ細かいことはいいか。
海底都市なんて初めてだ、どんな物を持っていこうかな?というワクワクした気持ちの前に、眼の前の不思議な風体をした人物への疑問符は何処かへ追いやられた。
嬉しそうに男性客へ御礼を述べる姿の後ろにいつのまにかヒカリフワフワムシがやってきて、はしゃぐ店主の姿を不思議そうに眺めていた。
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